「男の性(さが)」というものはかくも強いものなのか。
我が家のオス猫のウリ坊(実名・1歳)と、隣りビルに住むセンパイ(年齢不詳)オスとのせめぎ合い。それは猫ではなく"男vs男"だった…
ウリ坊(左)はビル4Fで成長するにしたがい、この界
隈のボス=センパイ(右)のテリトリーに攻め込む機会をうかがっていたのであった。
ウリ坊は新参者だが、めきめき図体ばかりデカくなり、それまでは見上げるようにしていた隣りのセンパイの身体を凌駕するばかりか、わずか1年にして完全に追い抜いてしまった。
そうすると習性とは面白いもので、雄ネコというものは他のオス猫のテリトリーを侵食してやろうという本能?が湧いてくるようだ。
「他のオス猫のテリトリー」すなわち『隣りの3階建てビル全体』をターゲットにいれ進出して行きたくなったらしい。
それまでは仮ににらみ合ってもセンパイはガキのウリ坊が背中を総毛立ちさせようが、どこ吹く風…入りたい時にこちらのビル4F部分にフラリとやってくる。
それはまるでいきなり『とらや』に帰ってくる「フーテンの寅さん」のように、「自分勝手で、かつ周囲に無頓着なもの」であった。
そしてウリ坊とミュミュ子おばさん共同のナワバリを勝手に偵察し、要所で"スプレー行動"と称するションベンかけを挑戦的にやらかしては、「お尻ペンペン」とばかりヨユーで去って行くものだった。
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こうした際、雄猫の小便はイヤになるほどくさい。
おそらく強気でいればいるほど、ある種の精神的”この野郎ブッとばすぞ”的ホルモンが作用し、より増幅されて分泌される生殖フェロモンにより【メス類を惹きつけ、弱いオスへの戦闘力情報】と化して、尿の"臭気"の強さは物語っているのだろう。
したがって臭いがくさければくさいほど、メスにとっては『あら素敵』と、"より強い血統はいらんかね"状態で匂ってくるし、他のオスどもには『おい、いつでもかかって来いよ』という強さを誇示する"濃い臭さ"となるのである。
だから喧嘩で決定的に負けたオス猫は、いきなり小便の臭気が弱くなる(前野学説)というデータさえある(…と思う 笑)。
それまで室内から一歩も出たことなく育ち、他の猫類を知らずに年齢を重ねてきたミュミュちゃん(避妊手術済み)は、初めて迎え入れた同族のウリ坊を(子猫で来たため)比較的抵抗なく、"自分の兄弟"のようにギコチないけれども受け容れてきたのであった。
裏で糸を引いていた?ミュミュ子(独身) |
だが、ちょくちょくフラリと現れて去って行くセンパイは本当の敵ではないとは知りつつも、「ただの侵入者」として警戒したままでいた。
それがウリ坊と一緒に暮らすようになってからは一転、幼いウリ坊の前に立って、センパイを撃退すべくキバをむく好戦的な姿には、ボクらがビックリしたものだ。
ちょうど渥美清が、義弟のヒロシの息子にちょっかい出して、妹のさくらから『お兄ちゃんッ、そんなことするために帰ってきたのっ』なんて云われて、京成柴又駅のホームに追っ払われるようなものかな(笑)。
じゃさしづめ、オレは「タコ社長」だったのか?なあんだそうかあ〜あはは。(泣)
それにしても「寅さん」の真似ばかりしている「原一平」という芸人は見ていて、研究も深めず、ちっとも物真似が上達していない。だから眺めていてとてもみじめに映ってならないなあ。
あと、”つきもの”になっているマンガ、あの高信太郎のタッチそっくりの寅さんのメルヘン調マンガも、【写真なら版権侵害】なんだろうけど、ひとり一生懸命やっていた本物の遺影の周囲に、あれだけ多くの(「寅さんに」)ブラ下がってるだけ…の(関敬六とかも)憐れっぽくて…いやだね関東の芸人は。 ま、どうでもいいことだけどさ。
こういうのを『ルビコンの河を渡った』と歴史になぞらえて表現する古い世代もいようが、この越境行動の開始はまさしくウリ坊が、一個のオス猫としての"野望"を前に押し立てた”独立宣言”そのものに他ならなかった。
ウリ坊は連日、センパイを可愛がってくれる(ボクの)義兄一家の視線が集まる場所(つまり、「隣のビル内の家庭」 笑)の一角に座っては挑発行動に出るようになった。
それは別に、何するわけでもなく( 笑 こうした時、猫族は”身繕い”でゴマかすことが多い)ひたすら姿を見せるだけ…で、「センパイの生活ゾーンに割り込む」だけの”宣戦布告”アピールを開始したのである。
猫族は頭がよく、敵の「最大の生命線」、つまりそこの飼い主に認められ自分を招き入れて貰ったら(そこのウチは=)”こっちのもの”。現在はその利権を《センパイ》が持っているテリトリー内で、そこの家人から
『ねぇ、可愛いからこの猫も入れてやろうよ』と、招き入れられたらさいご、一気に”陣地拡大”となる。
なんとか人間サマたちに誘い入れて貰えるよう、姿をこの場所に置いて、媚びを売っていたのだろう。
こうした場合あくまでも(判っちゃいるが)そこの「オリジナル猫」が受け入れるかどうかは”次の問題”である。
猫というもの、なにか「人間にお願いしたいことがある」場合、これは最大限度の努力を傾け【いかにも可愛らしくみせるもの】で、いい例が飼い主が判っていながらそれに負け、毎日のように
『XXちゃん、おいしい缶カンが欲ちいのネ』とか、野良猫の場合などはジブンに向けてズンズン進んできてくれると
……『多くの通行人の中からワタシを選んでくれたんだ、ジ〜〜〜ン』なんて、まんまと連中は、
『こちらの心の中にまんまと入り込んできてしまう』、詐欺師的技術というか、まるで【キャバクラのナンバー1】ホステス的”丸め込みテクニック”を持っている。
そう考えて、どこも間違ってはいない。
「釣った魚にエサはやらない」とよく言うけれど、あれは「片手落ち」の表現で、よく観察すれば”釣られた魚”じたい、
『決してコビなど売っていない…』という証明もまた真理である。
そうした経緯で(気の毒な?野良猫などを)拾ってきた”そいつ”の消息をたずねると、すっかりその"猫に選ばれた"人本人が、何のことはない「嬉々として目尻を下げ」てかしづく、"都合の良い召使い"に成り下がっているものだ(笑)。
そうした家庭にお邪魔して、そこのソファなどに満足そうにふんぞり返る(元野良)猫に、ボクは猫語でそっと、「お前も相当なタマだな」とつぶやくと
『あ〜ら、あの人もこうしているのが幸せだって云っているわ』 (「夏木マリ」調でお願いします)
『それにワタシはもう”おい、ネコ”じゃなくってよ、今はジョセフィンというの。オ〜ホホホ』
知らぬはご主人サマだけなのだ。
こうして悠悠自適を満喫していたセンパイだったが、意外な落とし穴が… |
毎日、隣家へと侵入始めたウリ坊の、そうした姑息な策動をセンパイが許そうはずがない。
このセンパイの拠点、宇野家は3F部分にあるが、最近は外からの(人間の)入り口サッシドアに、【ネコ専用 出入り口】として小さくガラスカットをし、センパイの出入りを自由自在にしてやったところ、マズイことに近所の色んな猫、それもが老若男女の「敵・友猫・後輩猫・小学生猫」など、文字通りの「種種雑多」が24時間やって来る結果を招いたのである。
後輩の「アカ」が(別に共産党員ではない)遊びにやってくるうちはいいが、なんと不倶戴天の敵、柏屋酒店のシマちゃん(オス・故人)までが勝手にやってくることになった。
これは意外だったのだが、センパイにとって”シマなどは連戦連勝の相手”で"カマセ猫"的存在、つまり【K−1】で例えると「センパイがクロコップ」だとすると、シマちゃんとは「中迫あたりの」クラスであって、負けたためしがなかったのだ。
ところが驚いたことに、猫というものは、自分が夜となく朝となく「休めるべきはずの場所」で、外敵が時間を選ばず跳梁バッコされ、挙句の果てはいきなり戦いを挑まれたりするうち、いつの間にか自分の領域内にガンガン敵のニオイをつけられると、
『オレって弱くなったのかな』と、おそらくは自信を次第に喪失してゆく……動物らしい。
で、このセンパイがシマについに負けたことが、この荒川区町屋2丁目2番のワンブロックに割拠する戦国猫たちにとって地すべり的な変化をもたらしたのであった。(NHKの【その時歴史は動いた】みたいだワン)
センパイはその「敗戦記念日」以降、ぷっつりと小便を引っかけに来なくなった。
その代わり、"失脚"を見てとったか、まだ「中学生ほどのウリ坊」が入れ替わるように、くっさ〜い小便をあちこちにスプレーし始めたのである。
2001年夏は雨が降らずカンカン照りで、その小便のエキスだけが強烈にベタつくような臭いを辺り一面に放つのだった。
水で流そうにもデッキブラシと一緒でなければ、まるで油性のようなその小便臭はこそぎ落とせないほどなのである。ぐぇ〜。
あいにくだけれども、たまたま同棲しているミュミュおばさんは、とうの昔に子宮と卵巣を(病気で)摘出しているため、せっかくその強い臭いも”中性”となった今では《思い当たるフシ》はなくなり、『あ〜らステキ』どころではない様子なのだ。
どうやらボクら人間家族同様、ミュミュちゃんも『ばっかヤロ〜。臭くて眠れねえじゃねえか』とばかりこの悪臭には顔を背けていたものらしい。
それからというもの毎日隣のビルの内外から、”昼も夜も”ウリ坊対センパイの戦いが始まった、これを名付けて『ウリセン戦争』という(笑)。
あのトッポジージョの声をこもらせたような"ウェ〜オ""ヨ〜オ"と、さんざん口げんかした上で最終的に"ボギャボギャフギャアツ"と、そらもういやホンマ、ホンマでっせ。
その度に仲裁に駆け付ける我が家は精神的に疲れる。
だって、"戦地"がこちら側ならまだいいが、一線を越えて騒動を起こしに行っている不法侵入者は、明らかにウチの猫の方なのだから、ケガなどさせたりしたらいけないのだ。
確かに、育ち盛りのウリ坊にしたら、ここ「屋上の我が家」という、たかだか60平方bそこそこの世界だけが行動範囲…という環境なのだから実に気の毒だ。よそに活動範囲を求めるのも無理はない。
だが、だからといって「大日本帝国」が大陸・満州にでっち上げ政府を作り、”英米から守ってやるために”中国や朝鮮への大陸侵略をめざしたのが正しかったのだ…などという詭弁などはやはり間違い。
よそへ出かけケンカなど輸出する方がまず間違いだ。
あまり毎日のようにトラブルを起こすので、なんとか隣りに行かせまいと、今度はボクとウリ坊との戦争になっていく。
つまり両家の境い目に障害物を作り防壁としたかったのである。
ところがどっこい、いかに「針金やら金網やら動員」しても(笑)、いつの間にか隣の家から「2匹の猫のケンカする声が聴こえてくるのであった。
『うっそだろ』これを家族が何回口走ったことか…。
どう考えても『猫の仔一匹通さぬ』鉄壁の防護だというのに、外界への憧れがそれをこじ開けてしまうのだろう。
毎日のように金網と針金が強化され、鉄くずが動員される。
結局強化に強化を重ね、最終的な現在形が写真の通りである。
いかにも「屋上屋を重ねた…」というか、計画性のない者がその都度やっつけ仕事で塗り固めた結果…がコレである。
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封鎖された"国境"でぼう然とするウリ坊の後頭部がか
なしい。左側の白パイプ外は"地上15m"なのに、ウリ
はコンジョウで越えてしまっていた。なお、カラスはプ
ラ製のダミーである。
NHKの『プロジェクトX』風に言えば
「2001年の夏、この下町、荒川の太陽はことさらに暑かった。突貫作業に没頭する前野らの全身に太陽は容赦なく照りつけた。…流すアブラ汗が締め付ける針金のねじれたラセンに垂れた。そしてスパイラルな流れとなって熱い屋根に落ちた。それが”ジュウ”と音をた・て・た。」(なんねぇよ 笑)思わぬ真夏の難工事となった。
だが、これで大願成就(それほどのことか?)し無事それ以降はウリ坊の侵略は封じ込められた。それはまさに"人間の尊厳を守るための激闘"を物語る出来ばえとなった。(おいおい)
猫とはこんなにくやしがるものなのか、戦闘でもセンパイが劣勢となっていただけにウリ坊は引導を渡せないまま"終戦"となったことがかなり不満なようだった。
一日中、室内を行ったりきたり急に駆け出したり、ごろんとなっては目だけランランさせたり…と、明らかにウリ坊の精神状態が不満だらけになっているのが良く解った。
左写真:"外へ行って男の意地が果たせずたまったストレスで円形脱毛症に。"気分転換"ひとつで(人間も)スグに治る。 写真上:退屈で退屈で仕方ないと、泣き出してしまったウリ坊。 |
そうするうち、家族が指をさして笑っている
『お父さん、ウリ坊のホラ、ここがハゲちゃった』
うわ〜、ホントに500円玉を横に伸ばして楕円にしたような面積の茶髪(笑)が、しっかり毛皮の地肌から抜け落ちているのである。
わ〜、こりゃ面白い、円形脱毛症のハゲだ。(写真参照)
「え?円形脱毛?」
『そう、たぶんストレスが原因だろうね。典型的なハゲ方だ。』ボクはハゲに詳しい(笑)。
「このまま、ハゲて行ってしまうのかしら」
『いいや、コレだけ典型だったらね、一過性のものだよ、気持ちが落ち着いたらすぐに治るさ。』
…というわけで、とんだ終戦処理がおまけに付いたけど、1ヵ月後には毛も生えてきて、すっかり回復して元通りになった。
『ウリセン戦争』は終わったけれど、今のところこの一角のボスは"空位"、もしくは"シマちゃん"のままである。
そのせいだろうか、センパイは我々人間どもに対しても、最近は"とくに腰が低く"なっているのは可笑しい。