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  Gallery "見・物 渋滞"

ある革ジャンの物語
松田優作さん忘れじの一枚
渡辺徹さんの笑みが止まった。この革ジャンの持っている独特の雰囲気が、収録中のボクらの間にあったお笑いムードを押し込んでしまったのだろう。
《ちょっと、これって・・・松田優作さんの・・・》愕然としていた。
さすがは【太陽に吠えろ】の一家うち。徹さん自身もあのジーパン刑事のような「殉職シーン」を経てきた”同じ釜”の役者にちがいはなかった。
《どうしてこれが?【ブラックレイン】で着てたヤツですよね・・・》中身の入っていない袖を掴んだまま、徹さんの語尾は「絶句」となった。

次々と邪魔な者を消すため、製鉄所に追い込んだシーンでの松田さん。
C copyrights ParamountMotionPictures
【BlackRain】1989

きわめてユニークなフォルムの松田さん用コスチューム、独特なエリによって、不気味さが増幅された

キャラクターは冷酷無比、時には親分にさえ牙を剥き、野望を
実現するためには手段を選ばなかった

撮影時から付いていた衣装整理タグ「佐藤」は役名だ
徹さんは、「松田さんの弟分」として可愛がられいつも楽しい酒を酌み交わしていたという。そこで1989年公開の【BlackRain】という映画でメガホンを取る大家リドリー・スコット監督からの指名により、本格的なハリウッド映画へのオファーがきたことを祝って乾杯もしたのだそうだ。役どころはアメリカ進出をめざしてやってきた日本のヤクザ。殺人を平然とやってのけて「国外犯」として日本へ護送となり逃亡・・・といったもので、両国の担当刑事、マイケル・ダグラスと高倉健、さらに古巣組織暴力をさえも向こうに回して暴れまわるといった冷酷非情な殺人犯を演じた。

このダークブラウンのゴート革ジャケットはアクションシーン(カメラは「スピード」のヤン・デ・ボン!)でのほぼ全編、特に大型バイクあやつるアクティヴさにフィットさせるための格好の衣装として松田さんのイメージはこの一枚で完成されており、この作品での松田さんのコスチューム・・・といったら、これ以外にピンとくるものはない。

《優作さんはね、「ロバート・デ・ニーロの野郎にゃ、くやしいけどかなわねぇ」といつも目のカタキにしていたんです。》(徹さん)
『この映画が公開されると、松田さんの鬼気迫るほどの存在感が他の役者を押しのけて印象的でした。』とボクが返す。

《それがね、じつはこの映画が封切られると優作さんのところに【松田さんと共演したい】と云ってきた俳優がいた。それがデ・ニーロだったんです・・・》徹さんは肩で大きく息をついた
(06年2月12日晩)。

皮肉なことにこの映画への出演を強行しなければ、松田優作のガンは治療できたはず・・・と関係者は証言する。

封切って間もない公開中の映画館に、夜のニュース速報で訃報を聴き、駆けつけた松田ファンが続々と詰め掛けた。
満員もいとわず客席だけでなく、彼らはどこの映画館の通路をも満杯にして、ひたすら銀幕に潤んだ目をくぎ付けにした。そして彼らは幕が閉じても立とうとはしなかった。
あまりに大きい存在の死を前にしながらも、映画館の外に歩み出てゆくため、誰もが涙を乾かす必要があったからである。


こうした各部のヘリが体当たり演技のすごさを裏付ける

左写真の「右袖口」アップ。表皮がこすれ擦過傷のひどい状態だ

大型バイクにまたがり神出鬼没、という設定にマッチした
コスチュームだった

クランクアップまでひたすら病魔と闘い、封切りを見守ってから空へと飛び発っていった
合掌 C copyrights ParamountMotionPictures【BlackRain】1989
工事中