こだわりの旅
『イチロー”首位打者”へ、これだけの万端準備』
沈黙したまま続けていた、これだけのこと
KOBE→PEORIA→SEATTLE→ to the”
Summit
”
前ページよりのつづき
じつはここのページにくるには約7ヶ月間翌シーズン開幕まで待っていた。
だから01年9月以来の更新=現在02年4月5日となってしまっている。
多くは語らないけれど、イチロー君があそこまでメジャーの頂点にまで昇りつめて駒を進めるにあたり、何らかの記述が足を引っ張る”万が一のケース”への深謀遠慮から、書くのを控えていたためだ。
いつの間にか、ボクの見える角度へはイチロー君も他人に見せてはいない秘密が含まれていた…それに彼の弱点(=書きネタ)探しをするマスコミや相手チームの情報ネットにポイントを与えてしまうことになりかねない。
イチロー最大のメジャー対策は《内角低目ボール》だった?
イチローのヒット分布からいくと、彼の右ヒザ小僧附近に来たタマは「ストライクなら」1塁線をザックリ斬るようにヒッティング。だが、無理して力を入れた打ち方は避けることが多かった。また「ボール」なら冷静に、きっちり見切って振らずにボールカウントを稼いでいた…し、日本の審判員はそうしたイチローが「内角球ボールを見送れば”ボール”」とまでそのゾーンの選球眼の良さを尊重していたものであった。
この”低さ”、そのすぐ横の「真ん中低め」にはイチローの大好きでおそらく最も打ち損じのない地帯が存在する…。
核心に入ろう。
イチローは自分の選球眼には絶大の信頼を置いており、また日本の審判各氏もそれを尊重してきた…だが、あれだけ個性豊かというか”バラバラな”ジャッジをするメジャーの審判員、特にトンでもない低めを《ストライク》にとってしまう者が多い、そうした特殊なモノサシの国への移住である。
あれだけの慎重居士が対策をとらないわけがない…とボクも目を凝らしていたが、結局は3年間、メジャーから取り寄せた”硬い”公式球をマシンで打つことだけ、目を馴らす事にとどまった…とボクは納得していた。
ところが、この「メジャー入り第一号バット」を眺めるうちにハタと気が付いた。
彼のバットの長さの中で、プロのタマをはじき返せるいわゆる”打芯”の部分はわずか一センチに満たない。そこへ140キロ大のボールを衝突させる…という神ワザ的な才能については、手前味噌ながら我が《球界遺産》(集英社刊)に詳しく分析しているのでここでは先を急ぐ。
その肝心なシンの部分はバットの先からちょうどハガキ一枚の長さ附近にある。
イチローの打芯部分はバット先からハガキ一枚分の距離に設定されている。
内角の低めいっぱい…にはバットの先を削るようでなければシンでミートできないのでは…?
…ということは、身体寄りの低め一杯という条件では《実際にはルール上のボール》でもメジャーの審判にかかれば《ストライク》をとられる危険性が高い。
つまりイチローの身に置き換えてみれば、日本では平然と見逃し、また審判らもボール…と尊重してくれていたタマも積極的に打っていかねばならない必要性にみまわれてしまっていたワケなのだ。
だから、メジャーキャンプ入り前日・初日と打ち込みに使ったバットを手にして多くの疑問が氷解することになった。
ボールの一部でもホームベースの一端を”かすればストライク”である。
それはかなり身体の近くを通過するわけで、バットは《直立》に近い角度…となり、ここでいう「主審の”誤差”」まで考慮に入れるとなると、それらのきわどいタマまで振っていく必要が生まれる。
すると、バットの先端からシンまでの距離考えると、イヤでも打席の土を削ってゆく(いわばバンカーショット)こともおきてくる、「シンとはハンマーの頭部分」に等しい。いかなる者も”ハンマーの柄”でクギを叩きに行くバカはいない。
イチローはメジャーもしっかり対策立ててくるだろう《左対左》への攻略法として、左投手最大の武器=内角低め一杯…をこうして先に克服していた。
これがボクの達した結論である。
彼に直接これを質してもどう返すのだろうか。ボクもそんなにヤボじゃない。
「そこまで考えてないですよ〜」といって笑うだけだろう。
これを読んで疑問に思われるムキもきっとあるだろう。
だけど、彼の公式戦でのバットには(日本時代も含め)このようなハゲは頭部には残されていない。
日本時代の個体:左=キャンプ時。右=シーズン中。ハゲはどこにもついていない。それほど低い球は振る必要がなかったからだ。
「2001年3月1日vs:パドレス戦」ピオリア球場1:05開始。イチローは正式にメジャー戦士となって行った。未使用券
ならば、どうしてこの[メジャー仕様]バットが日本では認可されないほどの黒ペイントの厚塗りでありながら、なおもあれだけ一定方向に繰り返し”グラウンドに頭突き”した痕跡が遺されているのか…。
使い手は”ミクロンの単位”をマネジメントできる男…、”単なる打ち損じが続いた”という反論ではボクは納得しない。
ブルーウェーブ時代のキャンプの朝から晩まで彼の練習ぶりを見て
《日本一の才能が日本一練習するのだから仕方ない》と解説したことがあった。
ボクとの初対面の94年にはイチローはメジャーを射程に設定したところだった…とみている。
それ以来、彼の展望のロングレンジぶり(これも才能だ!)親御さんゆずりのマジメさ…によって彼は今日まで準備を周到に重ねてきた。
それも凡人のボクらのような物ではなく基本的に《メジャーで何が起きても驚かない》質のものだった。
云ってみればそれは《一枚一枚、”紙”を重ねて積み上げる…》ような「今のうちにやれること」をした結果…が今日の登頂点だ。
そうまとめるべきなのだ。
あいにく彼のお気に入りのライターたちは、一様に想像力に乏しい面々が集まった(スイマセンね)。だから、”普段は口にしないイチローが語った!!”その入り口だけでいわば「イチロー発の大本営発表」しかボクは不勉強にして読んだことがない。
ただ、彼らも認めるだろうけれどもイチローがことさらに非凡なのは”想像力”の「多様さと豊さ」なのであって、このとんでもない範囲に及ぶ”XXがOOだったらどうしよう”逆に”OOがXXのケースにはどう返す”…というシュミレーションが常人のイメージできる範囲をはるかに超える情報量なのだろう。
いずれにせよこの「理詰めの天才」に狂いはない。
幾重もの”安全回復装置(フェイルセーフ)”機能で[ICHIRO 鈴木]号は武装されている。
しかしあれだけのスピード。仮に故障(事故)が起きた場合のリスクもまた大きい。
ボクが心配なのはその”万が一”の日、ただそれだけである。
お買い上げ〜